レカ郎写真記


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...... 2023年12月16日 の日記 ......
■ あり得ないことが原因で付け変わったトンネル   [ NO. 2023121601-1 ]


2004年北海道を襲った台風18号は北海道に大きな爪痕を残しました。もう来年で20年になる出来事ですが、今でも道内あちこちの森林に風倒木が当時のまま残っていたりしますし、札幌で当時観測された最大瞬間風速50mという記録はあれから何度も色々な台風や爆弾低気圧が襲来しているものの、今も破られていません。
まだ当時の記憶が鮮明に残っているという方も少なくないのではないかと思いますが、この台風の猛威が道路にも影響を与えました。それが今日ご紹介の大森トンネルです。
大森トンネルは国道229号にあるトンネルで竣工は2007年3月、25009mです。
この大森トンネル、かつては別なルートを通っていたんですが、その原因となったのが台風18号。
元々大森トンネルはもっと短いトンネルでした。豊浜トンネル岩盤崩落事故以来進められてきた積丹防災による危険と判断されたトンネルの付け替えが00年代をピークに今も進められていますが、そんな中大森トンネルは健康体と判断されたトンネルだったものの、そんなトンネルに引導を渡すきっかけになったのが大森トンネルの手前にあった大森大橋です。
大森大橋は1085年5年の建設期間を経て完成した429mの橋でした。その橋が台風の吸い上げ効果で潮位が上がっている状態の中、橋の下は崖に挟まれた小さな湾になってそこにはたくさんの消波ブロック、そこに海水が滞留し、そんな奇跡のような状態の中に沖からの波と崖にぶつかって跳ね返った波が重なって総重量3600tの橋を持ち上げて落橋させたのでした。
落橋と言ってもドスンと落ちるのではなく、崖の際まで橋桁を波が運んで吹っ飛ばしたというような状態です。
いわば津波が襲ったような感じです。

橋桁は下に落とされて木っ端微塵、これによって国道229号は長期間寸断されることを余儀なくされました。

その後残った橋脚を使って仮設の橋が設置され落橋から3カ月後の12月に通行が再開されましたが、その仮設の橋というのがトラス桁にグレーチングという構造。模型実験で安全が確認された上でのことだったものの、グレーチング、ようは鉄の網みたいなものですから下は丸見えという状態でした。
私も大森大橋、そして仮設の大森大橋両方共通ったことがありますが、グレーチングの仮設橋は結構通るのが怖かった覚えがあります。

そして仮復旧させてる中進められたのが本復旧の工事。トンネルを新たに作るという方法で現場を山側に大きく迂回して通過するという方法が取られましたが、そこで選ばれたのがウエンチクナイトンネルでした。
ウエンチクナイトンネルは85年11月竣工の長さ1011m、この元々あったトンネルを分岐させた上で延長することとしたわけです。
こうして仮復旧したものの、さらにこのウエンチクナイトンネルを延長する形で本復旧が進められた結果、ウエンチクナイトンネルは洞内に2か所も分岐を持つ珍しいトンネルとなったわけです。
私もトンネル延長工事の期間通ったことが何度かありましたが、左にカーブするトンネルの右側に新たなトンネルが出来ていて、中でまさに掘削作業が行われていたのを覚えています。
その後07年3月に新たなトンネルが竣工、そして古い方は閉塞されてしまいました。2か所ある分岐のうち1か所は塗り固められて分からなくなってしまっていますが、もう1か所ははっきりとトンネルが分岐して片方が閉塞されている様子を見ることができます。

そしてこのウエンチクナイトンネルは大森トンネルと名前を変えて2.5kmを超えるトンネルに生まれ変わりました。

現在落橋した大森大橋の古平側には閉塞処理されたとようみトンネルとウエンチクナイトンネルの抗口が仲良く並んでいるようです。
大森トンネルもまた本来健康体でしたので、複数のトンネル、覆道を道連れにし、ウエンチクナイトンネルは大森トンネルに臓器提供させた上で大森大橋が散っていったということになるわけです。

道内では他にも元々あったトンネルを分岐させて新しいトンネルを掘って接続するという方法をとったトンネルがいくつかあるものの、このウエンチクナイトンネルのような2か所も分岐して区間ごとに竣工年が異なっているというトンネルは稀なのではないかと思われます。
ちなみに大森トンネルにはウエンチクナイトンネルと竣工年や長さなどのデータが刻まれた銘板が今も残っているところがあるようです。

さて長くなりましたが、その大森トンネルがこちら



これは大森トンネルの神恵内側坑口なんですが、右カーブを描いてトンネルに入っていく国道、しかし左側に何か違和感を覚えませんか?
鉄道の車止めっぽいコンクリートの壁がありますね。実はこれが旧大森トンネルの抗口なのです。元々旧大森トンネルは少し低い位置に坑口があったため、閉塞処理され、国道がかさ上げした結果、こんな半分くらい埋まったような姿になってしまったというわけです。
普通廃トンネルになって坑口は塞がれてもトンネルだとわかる姿で残るものですがここは違っています。

そして少しわかりにくいですが左のずっと奥、崖下に大森覆道と思われる構造物の姿も。
この辺りもう少し詳しく撮影しておけばよかったです。

さてこの新大森トンネル、よく見ると扁額に妙な点が。それがこちら



と言っても最初の画像を拡大したものですが、坑口上に設置されている扁額は「大森トンネル」ではなく、「大 森 ト ン ネ ル」と文字の間に妙なスペースがあるんです。
このスペースを含めた文字数で考えてみると、もしかしてこの大森トンネル、元々は大森トンネルではなく、ウエンチクナイトンネルを名乗る予定だったのかもしれませんね。文字数が一致します。

ちなみに大森大橋下にあった消波ブロックの数々ですが、巨大なコンクリートの塊であるはずのものが海側から運ばれて削られたり破壊されたりし、木っ端微塵となっていて、それを製造メーカーの社員が研究しに来るほどだったとか。
この大森大橋落橋は豊浜トンネルの事故に続いて道路防災に一石を投じることになりました。

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